バイバイまた来るね#4 / 亀島

はっきりとした目的もないのになぜか「また来てしまう町」を歩き筆者がその雑感を主観と偏見を交えながら自由に綴ります。第4回目は亀島。

▶︎亀島駅/〒453-0013 愛知県名古屋市中村区亀島1丁目6

この町について特筆すべきことはほとんど何もないように思う。賑やかな名古屋駅の裏庭のようでもあり、いっそ影のような場所でもある。そんなふうに誰の気に留められることもなくひっそりと存在しているのがこの亀島という町だ。道路沿いには古い連投式建物がずっと続いていて彩が少ない。だけど人の耳の裏側のようにひっそりとしていて目立たないこの町がわたしはけっこう好きだ。

田舎育ちのせいもあって子供の頃から漠然と都会に憧れがあった。とりわけ小学生の頃は煌びやかな繁華街ではなく少し薄汚れてうらぶれた都会のライフスタイルに心惹かれ、チュッパチャップスを舐めながら延々と歩道を歩いたり、パーカーのフードを目深に被りポケットに手を突っ込んでガムを噛んだりしながら架空の都会景色を夢想していた。別にワルになりたかったわけではなく、ただあの頃は少しだけ、本当の自分より気怠げでアンニュイな雰囲気を醸し出したかったのだと思う。あれがいわゆる厨二病というやつだったのかと最近になって気がついた。あの頃のわたしは「キラキラの都会」ではなく「薄汚れた都会」に憧れていた。空が四角いと言ってみたかったし、コンビニの駐車場でオダギリジョーみたいな人にタバコの火を分けてもらいたかった。

亀島の漫然とした景色は、あの頃わたしが思い描いていたアンニュイな都会風景にちょっと似ている。(ここでは名古屋が都会か否かという全国的論争は一旦脇に置く)

世界のやまちゃん

顔をあげればミッドランドスクエアやJPタワーもすぐ近くに見える。だけどこの町に都会的な華やかさはほとんどない。コインパーキングの前で明るい髪色のカップルがペットを飼うかどうかで言い合いをしていた。彼女の方は低いコンクリート塀の淵に腰掛けて無表情に地面の石をサンダルの底で転がら不満を言い連ね、恋人はスマホを眺めながら時々それに反論しつつも曖昧に相槌を打っていた。しばらく決着はつきそうになかった。

いくつかの店舗が軒を連ねる古びた高架はどこか哀愁を帯びていてこの町の素敵なインテリアになっている。それに美観的な面を差し引いてもこの町には痒いところに手が届くような便利さがあって住む街としては決して悪くない。徒歩圏内にスーパーが複数店舗あり、コンビニの数も十分で、何よりレンタルビデオ店のゲオがあり(2021年現在)生活する分には申し分のない環境だと思う。

MEAT BOUL 41才の春だから

ドーナッツカフェ/Lyrical coffee donu

アミカ中村井深店サンエース亀島店

決して多くはないけれど、駅から少し足を伸ばせば気の利いたお店もいくつかある。パッと思いつくのはやっぱり「喫茶ゾウメシ」で、このお店のキーマカレーは味噌がベースになっていてとても美味しい。昔ながらの固いプリンやアイスクリームソーダも人気で休日のランチは家族連れや若い女の子たちの姿で賑わっている。店内に香る味噌の匂いと、座敷の窓のステンドグラスがいい。落ち着いた照明やインテリアのせいか店内が賑わっていても店自体には全体として趣深く渋い雰囲気がある。自然に生えた木のようにこのお店はこの町に馴染んでいる。

キーマカレー ¥960

キーマカレーのオムライス ¥1,080

クリームソーダ(クッキー有)¥660

カスタードプリン ¥450

亀島は耳の裏のように目立たず華がない町であると同時に、耳の裏のような包容力を持った町でもある。名古屋駅とこのあたりの間には見えない国境線のようなものがあって、その線の内側にいる間はみんなサンダルやジャージでフラフラと歩き回ることができる。だけど武装せずそのままその国境線を越える者はほとんどいない。この町の住民の生活はこの町の惰性と倦怠感によって守られている。耳の裏のようなこの町もまた人々の生活になくてはならない存在なのだと思う。

 

 

 

〈亀島駅〉家賃平均:単身者*6.0万円 / ファミリー*9.0万円 / 東山線/名古屋駅に隣接する住宅エリア。