〈アトリエうかい〉アートピースと言わせてほしい

〈ゆずれないおやつの話_vol12〉

〈ゆずれないおやつの話〉では筆者の人生において欠かせないと思うおやつについて勝手な尺度で語ります。今回は「アトリエうかい」のフールセックの小缶です。


大学生の頃、何となしに見ていた手土産特集でアトリエうかいの存在を知った。角の丸い長方形の缶の中に宝石のように行儀よく並んだクッキーがそれはもう可愛くて可愛くて、写真からいつまでも目が離せなかったことを覚えている。

直ちにネット検索してみるとどうやら名古屋に実店舗は無く、京都、大阪、東京、神奈川それぞれにぜんぶで5店舗あるのみ。どこもクッキーを買うためだけに足を運ぶにしては遠すぎたし、アナログ主義的な性格上ネット通販で買うのも何か味気ないような感じがして気が進まなかった。

それと同時に入手しづらいということが分かるといっそう尊いものかもようにも思えたし、なぜだか簡単に手に入れてしまってはいけないようにも思えた。

いつか誰かがお土産で買ってくるとかしてきっとその時はやってくるに違いない、そしてそれこそが私とアトリエうかいのあるべき対面の形なのだと思い込むことで自分を納得させたのは、巡り合わせを大切にしたいとかそんな情緒的な感情からなるスタンスではなく、持ち前の他力本願でご都合主義的な発想によるものだった。

私はいつも物事と自分との間に運命的な要素を介在させようとするところがあって、そこには夢見がちな性格であることも少なからず関わっているとは思うけれど、何よりその怠惰な性質ゆえに自分で行動を起こさずに済む言い訳のようなものをいつも自分で用意しているのだと思う。そんなわけで数年の時が過ぎだ。

このようにして私の場合結果的にいつも憧れを憧れのまま忘却の彼方に押しやり蓋をしてその存在自体を忘れてしまうことが多いのだけれど、今回に限ってはその他力本願でご都合主義的な発想が功を奏し、なんと数年の時を経て本当にその時はやってきた。

夫が千葉への出張の帰り道に品川駅に立ち寄ることになったのだ。品川駅構内のエキュート品川の一階にはアトリエうかいの店舗がある。私はそのことを忘れていなかった。

何があってもアトリエうかいのクッキー缶だけは買ってきて欲しいと夫に念を押しに押しまくり、数年越しに私はこのクッキー缶を手にしたのである。

クラシカルで洗練されていながら可愛い。繊細な一枚一枚は食べることはもちろんのこと触ることさえなんだか気が引けるほどの尊さを放っていて、クッキーというよりもアートピースと呼ぶ方が正しいように思えた。

真空パックして一旦は引き出しにしまってどうしようもなくやるせない気持ちになった時に取り出す、ということを繰り返し数年かけて食べたいくらいの可愛さであったけれど、一度開封してしまった以上そんなことを言っている間にもその寿命は刻一刻と迫ってくるばかりなので、意を決しまずは花のフォルムに型抜きされたものを口に運ぶと、その上品な砕け方と濃厚な風味にすっかり夢中になってしまい食べ終わる頃には次の一枚に手を伸ばすことを禁じ得ず、三日も経たずに缶の中は空っぽになった。

バターがたっぷり練り込まれたクッキー生地は息を吐くたび芳醇な香りが喉から鼻に抜け幸せで、特に〈香ばしいゴマのガレット〉は飾り気のない素朴な外見から期待した通りのコク深さが堪能でき一枚で充分な満足感を得ることができるし、何よりそれぞれにに違った味のアクセントを持たせることでトータルのバランスが整っているところに老舗の実力を感じた。

端的に言えばすごく美味しく、ひたすらに美味しい。

長年の思い入れや期待が実際以上にその評価を底上げするという原理があることを加味した上でもこのクッキーはあまりにも美味し過ぎたし、商品としての枠を越えおやつとはなんと幸せな存在なのかと人生におけるおやつのありがたみを訴えかけてくるようなそんな説得力と力強さを秘めていて、一度食べたらこれはもう誰であってももう一度買い求めずにはいられないと思います。

フールセック・小缶 / ¥2,500(税込)


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