#13スモールトーク / ほくろばっか見てた

 

#13スモールトーク / ほくろばっか見てた

 

今思えば、すごくわがままな子だったと思う。会う約束を平気で直前にキャンセルすることもあれば、急に会おうと言ってくることもあったし、唐突に不機嫌になって帰ってしまうこともあれば、機嫌の良い日は朝までずっと笑い通しだったりもした。人の気にしているようなことも、そうでないこともずけずけと口にし、喧嘩になれば街中だろうと一目を気にせず怒鳴った。会えばほとんど一時間に一回は舌打ちをしたし、そうでなくても何かしら悪態をついていた。

どう考えても私のきらいな種類の人だったのに、少しもきらいになれないのがずっと不思議だった。あまりにも子供じみた振る舞いが多かったせいで侮っていた部分もあったと思うし、敵を作りやすく周りとうまくやれない部分に同情もしていた。顔がすごく可愛かったことも無関係とは言えない。大きな目とそばかすが印象的で外国の子供のような顔立ちだった。恋愛対象となる性別にかかわらず、外見的に優れた人間から発せられるわがままや理不尽な仕打ちには、不思議な強制力というのか、とにかく無根拠な説得力があるように感じてしまう。特に私はそういう力に屈しやすい。自分の外見にコンプレックスがあるせいかもしれない。だけどそういった諸々はそれほど重要なことじゃなかった。理屈抜きでなぜかきらいになれない人も存在するのだと、最近ではそう思う。

髪を切った後に、髪切った?と聞かれるのを嫌い、おろしたての服を着た日に、新しい服だね、と言われることも嫌った。だから気づいても口にはしなかったし、ずっと肩のあたりで切り揃えられていた髪がサイドと襟足を刈り上げたショートヘアに変わた時にも何も言わなかった。しかし結局「逆に不自然でうざい」と怒られたので「めっちゃ似合ってる」と言ったら「うっさいぼけしねかす」と罵詈雑言を浴びせられた。後にも先にもあんなに理不尽なコミュニケーションをわたしは知らない。

赤い洋服を着ていることが多かったから、赤色が好きなのか尋ねたら、たまたまだと言った。たまたま赤い洋服ばか理選んでしまうということは、やっぱり赤色が好きということになるのではあるまいかと思ったけれど、揚げ足を取るようなことを言うと決まって不機嫌になるので言わずにおいた。

歩く速度がはやかったからいつも私の少し前を歩いていた。いつも襟ぐりの深い洋服ばかり着ていて、少し後ろを歩く私は彼女の背中のほくろばかり見ていた。

バイトを辞めてしまってから一度だけごはんに行ったけれど、最後にごはんを食べた翌日に送ったメッセージに返信がなく、それきり連絡は途絶えた。送ったメッセージに返信がないことはしょっちゅうあったからそのうちまた向こうから連絡してくるだろうと思っていたら、いつの間にか一年が過ぎた。その一年後に私はスマホを水没させ、バックアップをとっていなかったから全ての連絡先を失った。元気でいるのかそれだけでも無性に確認したくなっていつだったかSNSでアカウントを探そうとしたけれど、どうしても苗字が思い出せなかった。最初から知らなかったのかもしれない。