#13スモールトーク / ハツの話

うちの猫の話がしたい。うちには猫が二匹いて、そのどちらも生まれたばかりの頃に拾われた。最初にやってきたのがハツだった。

 

#13スモールトーク / ハツの話

 

連れて行った動物病院で生後一ヶ月くらいだろうと言われたのがその年の一月末のことで、逆算すると生まれたのは大体年末年始ということになるから、覚えやすいし誕生日は一月一日にしようと決めた。新年は初詣とか初日の出とか初物とかとにかく「ハツ」に縁があるし、何より私と夫にとって初めて一緒に暮らすことになった猫だからということもあって、私が「ハツ」と命名した。いいね、と言ったのは夫だけで、周囲の人には「焼き鳥のハツを連想する」とか「下町の団子屋の娘って感じ」等々、微妙な評価しか得られなかった。けれど私はすごく気に入っている。

ハツはあまり体が頑丈じゃなかった。拾われた頃すでに猫風邪に罹っていて、目も鼻もぐしゃぐしゃでガリガリだったからしばらくは通院が必要で元気になるまでは毎日気が気じゃなかった。フードは獣医さんと相談し、少し値は張るが添加物がほとんど含まれていない良質なものを食べさせた。それでも普通の猫に比べて吐き戻す回数は多く、よくお腹を下し部屋のあちこちを汚した。そういう体質なのだと獣医さんは言った。

早朝、私と夫のどちらかが起きるまで鳴き続け、家を空ける時間が長い日は帰宅すると決まって本棚の本やテーブルにあったものが床に散乱していた。猫のくせにひとりきりで過ごすことを嫌い、人がいる空間を好んだ。だから私たちはハツがやってきてから一度も旅行をしていない。気をひくためにわざと物を落とすこともある。おもちゃの隠し場所もすぐに見つけ出す。体調の悪い人がいるとその人の周りをそわそわとうろつき離れない。

ハツはすごく賢い。そして誰よりも周りのことをよく観察している。そのおかげで実際、夫は命拾いをしたことがあるのだ。

ある夜、私が机に向かって作業をしていると、背後で今までに聞いたことのないうめき声のような大きな鳴き声がした。窓の外の鳥に向かって鳴く声とも、郵便配達員相手に威嚇する鳴き声とも違う、ウォーンとバオーンの間のような本当に聞いたことのない声だった。反射的にハツの体調が悪いのだと思い慌てて振り返ったがそんなふうには見えない。しかししきりに夫の顔の匂いを描いでいるので薄暗い中で目を凝らしよくよく見ると、夫の顔の色が土色のような青黒いような不健康な色になり、首の角度も不自然だった。

その日夫はネット記事か何かを読んで「分厚いタオルを首に巻き付けて寝るとスマホ首が治るらしいよ」と得意げに「タオル枕」なるものを試して寝ていたのだが、どうやらそれが原因で顔が鬱血し酸欠のような状態になっていたのだった。私は慌てて首を持ち上げタオルを外し、夫を起した。最初の方は酸欠のせいか寝ぼけているのか意識が朦朧としていたが少しずつ回復しことなきを得た。後に「首タオル」とネットで検索したら〈タオル枕で寝るのは危険です!〉という記事がたくさん出てきた。

あの時ハツがいなかったら、とそれから数年が過ぎた今でも私たちは時々話す。そしてそのたびハツを伏し拝んでいる。